その一瞬にしか存在しない幻想的な音の世界を体感!

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カラフルな色とりどりのスタッキングチェアが並ぶライブ会場に観客が集まり始め、ふと、いつにも増して女性客の多さに気付く。それもそのはず、今夜のゲスト奏者は現代のジャズシーンで活躍される中でも、イケメン奏者で名の知れた2人をお迎えしている。かくいうわたしも、取材という名目の中で至近距離の2人を目の前に緊張が隠せないから困ったものだ。

サックス奏者の太田 剣氏は一昨年、ピアニストのクリヤ・マコトとのDUOで既に田町サロンを湧かせている。今から10年以上も前にギタリストの小沼 ようすけとのDUOをジャズバーのハァーミットドルフィンで開催したことをキッカケに何度か足を運ぶようになり、浜松に馴染みがあるようだ。今回のピアニスト、ハクエイ・キム氏とのDUOは、昨年は5回のツアーを共にするなどして、関係こそ蜜なものの互いに別々の活動があり、およそ3ヶ月振りの再会で、しかも浜松では初めてというから楽しみでならない。さて、今夜を皮切りにツアーがスタートする勢いに乗った2人の熱い言葉を伺うことにしよう。

開口一番に「実は3日前から喉風邪をひいてしまいまして、いつもはこんなハスキーじゃないんですよ。」と渋い声を発する太田氏だったが、声はかすれてるもののサックスには何ら支障が出ないといった。それを横目に物静かな佇まいで耳を傾けるハクエイ氏がいた。

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会場入りですぐにリハが行われたようだが「リハ自体は曲合わせなどではなく音合わせのみでしたね。」と、スタッフから耳にしたわたしは不思議に思い訪ねてみることにした。すると太田氏がすぐさま「何も決めずにヒラメキでスタートするんだよ。」と語ると、続けてハクエイ氏が口を開き「お互いが知るレパートリーの中で、片方のイントロでスタートすることが多いんですよ、まあ、大抵僕が出すんですけど・・・ね」と、笑みをこぼし優しい表情を見せ、場を和ませてくれたおかげで一気に緊張の糸がほぐれた気がした。

どうやら2人のライブは、ハクエイ氏のイントロで太田氏を誘うカタチのスタートで「あぁ、この曲ね。うんうん、じゃ次はこんな感じかな?」と、1曲終えた毎に互いの空気感を読み取り、まるで音で会話しながら創り上げる即興ライブであるというから凄い。あらかじめ何かを決めてその通りにやるというのはあまり新鮮ではなく、その時生まれた感じがしないというのだ。ナチュラルな姿勢を崩さない太田氏の発する言葉のあまりにもその自然体の格好良さに、一瞬身震いした。

更に「前日から明日はカレーを食べようと思っていても、実際にその時にカレー腹じゃないことがあるでしょ。」と、付け加え、わかり易い例を出してくれた。するとハクエイ氏が「何だよ!カレーって言ったじゃん!って人もいますけどね。」と笑いをかぶせてくる。そんな些細なやり取りの中にも、2人の会話が空気の流れのように極々自然で意志の疎通の良さが受け取れる。ハクエイ氏は「お互いを証明し合わなくていい関係性を築けているからこそですよ。」と、互いを理解し合う関係性を逆に証明してみせてくれたのだった。

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わたしは素人目線からジャズライブに対しての楽しみ方を伺ってみると、ハクエイ氏は、多くの方にジャズを気軽に楽しんでもらい、ライブという作られた空間の中で音を肌で感じ、自由なジャズを体感してほしいという。そのあと太田氏は、年代応じてジャズに対する意識は違うと続け、歴史あるジャスも、年々時間芸術というアートのカタチを成してきている。そしてその時間芸術は、今、この瞬間のライブでしか生まれないもので、できれば観客を巻き込んでそれを共感してもらいたいと熱く放つ思いを語ってくれた。

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2人がライブを通じて伝えたいものは、感じることの大切さなのだ。「ジャズってよくわからない。」そんな風に思っている方も多い。それでいい。わからない中でも感じる何かがあればいい。そんな風に思えたら、きっとジャズを聴く姿勢が楽になるだろう。

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最後に2人に我がWEBマガジンladeのテーマである「つなぐ」について、彼らの音楽とのつながりについて尋ねてみた。太田氏は、自分の奏でる音楽が自分を育て、人を育て、音楽は未来永劫全ての人との関わり合いもつながっていくと語り、ハクエイ氏も続き、自分にとって音楽は命をつなぐもの。たかが音楽、されど音楽、音楽なしの生活をしてこなかったし、音楽から発するパワーは目には見えないものだけれど、音楽に国境はなく、全ての縁を今もつなぎ続けていますよ。と締めくくってくれた。

ライブ前という短時間の取材の中にも関わらず、快く取材を引き受けてくれた2人は、最後の最後まで自然体であった。ライブ主催の平野氏のMCにより、ライブスタートを伝えると、会場から湧く歓声の渦。観客の女性に贈るかのように切ないラブバラードから始まったライブは、1曲1曲がその瞬間にしか存在しない音の世界を創り出し、最後に盛大な歓声と共にアンコールを迎え、ソニー・ロリンズによる作曲の「オレオ」で2人の奏でる即興芸術は幕を閉じたのであった。

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田町サロン
静岡県浜松市中区田町326-28
TEL:053-455-8001
http://www.08-art.com/

太田 剣(sax)
http://www.kenota.net/
ハクエイ キム(piano)
http://www.universal-music.co.jp/hakuei-kim

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