伊豆長岡・温泉旅館「三養荘」記念日を祝して春の味覚を味わう”雄峰”での懐石料理-4-

伊豆長岡温泉 三養荘「雄峰」で味わう記念日の懐石

春の気配をはらんだ夕暮れ。柔らかな群青色に染まりゆく空の下、そっと灯りをまとった新館の正面が静かに浮かび上がります。この日、私たちが訪れたのは、歴史薫る名宿「伊豆長岡温泉 三養荘」。象牙婚式となる14周年の結婚記念日。幾重にも重ねてきた時間を祝う夜が、今、静かに始まります。

凛とした空気とともに広がるこの場所は、この宿ならではの奥行きある空間美。

フロントを通り、畳の廊下を進みます。

木のぬくもりとやわらかな灯りに包まれた静寂な場所。段々に重なる窓越しに庭の景色が切り取りられ、まるで一枚の画のように。外の気配と切り離された穏やかな時間が流れ、自然と呼吸が深くなるような和の佇まい。

庭園を望む、段々に続く廊下

奥へと続く長い長い廊下は緩やかに傾斜し、視界が広がるように映る窓越しに庭園を望みながら、私たちを導いてくれます。

手入れの行き届いた松、苔むした石、夕闇に溶け込むように静かに流れる水の気配。この美しい光景を眺めながら、歩幅を合わせて並んで歩くと、14年という年月をそっと振り返るような時間に感じます。

階段を上がると、お食事処「雄峰(新館)」と「もくせい(本館)」があります。

お食事処「雄峰」で迎える祝宴

夕食は、二つの場所に割り振られ、私たちは新館「雄峰」の間に案内され、17:30〜スタート。離れからお食事処までは、庭を眺めながら歩いて約10分。距離があるため、お部屋でゆっくりと食事を楽しむという選択も可能です。

食と美が響き合う空間

このお食事処で過ごすと、目にするのが、舞台壁を彩る華やかな人間国宝の作品。截金(きりかね)作家の江里佐代子氏による伊豆の風景を描いた繊細な藝術作品「峰光」。金のきらめきが静かに空間を照らし、懐石料理と静かに響き合い、文化と美意識に触れる体験へ。(※截金(きりかね)とは、純金箔を数枚焼き合わせて厚みを持たせ、革の盤の上で竹刀で細く線状(または丸、菱、三角形)にたち切る。それを筆端につけて、さまざまな文様を描きあらわす技法。)

人間国宝《截金作家》江里佐代子 / Eri Sayokoプロフィール

1945年 京都に生まれる
1966年 私立成安女子短期大学意匠染色コース卒業
1977年 松久真也師の截金教室に入門
1978年 北村起祥師に師事、伝統截金の伝授を受ける。
1982年 京都府工芸美術展2枚折屏風『萬象放輝』大賞受賞
1983~
1985年 日本伝統工芸展 入選
1987~
1989年 日本伝統工芸展 入選
1988年 伊豆長岡温泉三養荘雄峰の間壁面「峰光」制作
2001年 京都宇治平等院 雲中供養菩薩復元制作参加

日本工芸会正会員
京都府工芸美術作家協会理事
京都市立芸術大学非常勤講師
京都造形芸術大学客員教授

畳の香りがやさしく漂う「雄峰」の間。128畳を誇る大広間でありながら、席と席のあいだには十分なゆとりがあり、まるでそれぞれに小さな個室が用意されているかのよう。視線や気配が気にならない、穏やかで上質な距離感が保たれています。

五感でいただく、伊豆長岡の旬〜如月の御献立〜

料理長の細やかな手仕事が光る本格懐石。一皿ごとに、季節の物語が丁寧に紡がれていきます。

まずは、結婚記念日14周年の象牙婚式を祝して、升から溢れ出すほどに注がれる「こぼれスパークリング」をいただきます。

きらめく泡がグラスを満たし、その輝きが14年の歩みと重なる瞬間。

配膳されてきたのは、曲線が美しい木箱。その佇まいの愛らしさに、思わず顔が綻びます。これから始まるひとときを、心静かに高鳴らせてくれました。

そっと蓋を開けると、中には二段のお重。蓋を開けた瞬間に広がる旬の彩り、小さな小鉢が丁寧に並び、まるで宝箱のよう。

象牙婚式を祝して乾杯。やわらかくも強く、時を重ねるほどに深まる象牙のように、私たちの歩みもまた、静かに艶を帯びていけるようにと、感謝と願いを込めて。

旬菜「ウルイ、蟹柚子味噌和え、小桜豆腐」

ウルイや菜花のほろ苦さに、蟹柚子味噌のやわらかな甘みと旨み。春の訪れを告げる小さな前菜たちが、まるで庭の景色を映し出し閉じ込めたかのような愛らしさを感じる重箱。

旬菜「桜花長芋、天豆二身揚げ、菜花生ハム巻き、三色団子、白魚唐揚げ」

そのまま、お花見ができてしまいそうな一品です。

御椀「下田産金目鯛道明寺蒸し、三島産椎茸、筍、花弁人参、地芽」

下田産金目鯛の道明寺蒸し。ふわりと立ちのぼる湯気の奥に、出汁の澄んだ香りと三島産椎茸の滋味。ひと口含むたび、身体が静かにほどけていくやさしい味わい。添えられた地芽の爽やかな余韻に浸ります。

お造り「海の幸盛り合わせ」

サヨリ、赤貝、アオリイカ、本鮪と、海に恵まれた伊豆の力強さを感じる盛り合わせ。艶やかな身の弾力が、旬そのものを語り、透き通るような美しい白身で、クセがなく上品でほのかな甘みがあるサヨリの絶品さには驚きを隠せません。そして、刺身の美味しさは言うまでもなく、薄く美しく桂剥きにし、千切りで添えられた大根と紅芯大根のツマは透けるほど繊細。箸でそっと持ち上げると、ふわりと軽く、それでいて凛とした張りがある。口に運べば、シャキッと心地よい歯ざわりで、みずみずしい甘みが広がり、思わず「美味しすぎる」と頬がゆるみます。料理長の確かな技があってこそ生まれる、素材そのものの瑞々しさを際立たせる一皿。

桜の時季ゆえ、料理には花びらをかたどった優美な飾り切りが見られ、その余韻のまま、ふと天井を見上げると、そこにも静かに花が開いていることに気づきます。

焼肴「ホワイト富士山サーモン菜種焼き、素取茗荷」

ふっくらと火入れされた富士山サーモンに、きめ細やかな炒り卵をまとわせた菜種焼き。しっとりとした旨みに、卵のやさしい甘みが重なり、上品な脂が静かにほどけます。素取茗荷の清涼感が後味を引き締める、春らしい穏やかな一皿。

炊合せ「海老芋、鯛子、蕗、茄子、桜麩」

海老芋は、ねっとりと濃く、それでいて上品。舌の上でとろけるようななめらかさが広がり、鯛の子は、出汁の旨みをたっぷりと抱き込んで、深い余韻を残します。

強肴「国産牛ヒレステーキ、添え野菜、新玉葱和風ソース」

強肴は、国産牛ヒレステーキ。きめ細やかな肉質と上品な旨みが際立つ、さすがの上質さ。しっとりとした火入れで仕上げられていましたが、個人的にはもう少しミディアムレアであれば、さらにその繊細な旨みが際立ったように感じました。

酢の物「蛍烏賊、細魚、玉葱、大葉、紅蓼、丹那ヨーグルトソース」

蛍烏賊と細魚の旨みに寄り添うのは、丹那ヨーグルトのまろやかなソース。やさしい酸味が全体をふんわりと包み込み、角のない柔らかな味わいで、素材の持ち味を引き立てながら、後味はすっきりと軽やかに。

御食事「生姜と浅利の炊き込みご飯、留椀、香の物」

生姜を利かせた炊き込みご飯は、浅利の出汁をたっぷりと吸い込み、旨みが幾重にも重なる味わい。ふわりと立ちのぼる香りが食欲を誘い、ひと口ごとに滋味が広がる。まろやかな赤出汁がそっと寄り添い、ほっこりと心ほどける締めくくり。

「ほうじ茶」

食後には、香ばしいほうじ茶を。立ちのぼるやわらかな香りが余韻を整え、満ち足りたひとときを静かに結んでくれます。

甘味「桜最中、季節の果物」

甘味は、桜最中と季節の果物のいちごが添えられ、さらに、結婚記念日を祝してチョコレートの心遣いも。さりげない祝福が添えられ、心まで満たされる甘味。

上質な白餡に桜の葉を添え、淡いピンクの桜を模った最中の皮はサクサクと香ばしさが押し寄せて、やさしい甘みが口の中でふわりとほどけ、春を感じる極上の締めくくりに。

「天空の抹茶」

桜最中のやさしい甘みのあとにいただく、天空の抹茶。ほろ苦さの奥に深みを湛えた一服が、甘味の余韻を整えてくれます。

「寿」と「養」の文字がかけられた床の間。心まで満たされる、至福の時間となり、「記念日に選んで本当によかった」と、静かに思える場所でした。派手な演出ではなく、積み重ねられた美意識とおもてなしが、私たちの節目をやさしく包み込んでくれ、歳月を重ねた先に、そっと帰ってきたくなるような、そんな余韻を残す一夜。

人間国宝の舞台を背に凛と座す。美に包まれた一夜を忘れえぬ記憶として。

伊豆長岡温泉 三養荘
住所:〒410-2204 静岡県伊豆の国市墹之上270
TEL:055-947-1111
https://www.seibuprince.com/ja/sanyo-so-ryokan

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