伊豆長岡・温泉旅館「三養荘」美人の湯と称される安らぎの湯と今昔を巡る写真展-7-

伊豆長岡、源氏山の山のふところに抱かれ、歴史の香りを今に伝える名宿伊豆長岡温泉 三養荘」。昭和初期、三菱財閥三代目総帥の岩崎久彌の別邸として建てられたこの場所は、時を重ねた建築と広大な日本庭園が織りなす、静けさに満ちた特別な場所。まだ朝日が差し込みはじめたばかりの澄んだ空気の中、「本館」の玄関から大浴場へと向かいます。

本館は入母屋造で、人造スレート葺の平屋建て。国の登録有形文化財にも認定されており、入り口に足を踏み入れれば、そこは、時を重ねた木の温もりに包まれた静かな空間が待ち構えています。低く設えられた上がり框の先には、端正に整えられた畳の間。左右には深みのある木製の引き戸が並び、欄間の繊細な格子細工や、整然と続く畳の縁が、数寄屋造りならではの端正な美しさを感じさせます。

凛と佇む金屏風。やわらかな灯りを受けて輝く金地には、しなやかに枝を垂らす柳の姿。その枝先には小鳥たちが羽を休め、空には燕が軽やかに舞っています。足元には水辺が描かれ、白鷺が静かに佇む様子が、穏やかな情景をつくり出しています。金の光に包まれた画面の中に、風の気配や水の流れまでもが感じられるようで、まるで一幅の風景がそのまま広がっているかのようです。

華やかでありながらどこか静謐で、空間にそっと気品を添える佇まい。

静かに佇む朱塗りの飾り台、その上には精緻な彫刻が施された花器が設られ、こうしたさりげない調度のひとつひとつからも、三養荘が大切に受け継いできた美意識と、もてなしの心が感じられます。背後の襖には、金であしらわれた家紋が静かに散りばめられ、落ち着いた空間の中に格調を添えています。華やかさと気品がほどよく調和し、まるでこの場所に流れる時間そのものを静かに見守っているかのよう。

廊下の一角には、季節を告げるやさしい表情のお雛様が飾られており、穏やかに寄り添うお内裏様とお雛様の姿。

天井には、柔らかな光を落とす和照明が備えられ、その灯りが天井や梁をやさしく照らし、館内に落ち着いたぬくもりを生み出しています。

入口右手には、「応接室」が備わり、やわらかな灯りを落とす天井の照明の下、花柄の布張りのソファが向かい合い、その中央にはレースのクロスがかけられたテーブルが置かれています。足元には繊細な模様の絨毯が広がります。日本家屋ならではの落ち着きのある空間に、洋の意匠が自然に溶け合い、どこか懐かしく、ゆったりとした時間が流れているようです。

ほのかな灯りのもと、静かな佇まいを見せる茶室。掛け軸は「渓梅一朶香(けいばい いちだ かんばし)」。人の目に触れない谷間の梅が、寒さの中で静かに芳しい香りを漂わせている様子を描いた禅語。誰に評価されずとも、己の人生をただ無心に、ひたむきに生きれば、美しい「花」を咲かせることができるという教えで、茶席で好まれる新春の趣となります。

本館と新館をつなぐ廊下には、三養荘の四季の移ろいを写した写真が飾られており、館内を歩くだけでも、自然の美しさとともにゆったりとした時間を味わうことができます。

そんな空間を抜けて辿り着いたのは、朝の静けさに包まれた大浴場と露天風呂。

温泉大浴場の男女の入れ替えはなく、内湯は、15:00〜翌朝9:30まで、露天風呂は、15:00〜0:00、翌朝6:00〜9:30までの利用が可能です。

三養荘の湯は、“美人の湯”と称されるpH9.1のアルカリ性単純泉。クセがなくやわらかく、肌にすっと馴染むしっとりとした湯ざわりで、リウマチ性疾患、運動器障害、神経麻痺、病後回復期などに効果が見られるとされています。庭を眺めながら湯に身を委ねていると、身体の力だけでなく、心までもほどけていくような感覚に包まれて、整う身体。

緑豊かな露天風呂で、やわらかな湯に抱かれる朝。朝日の眩しさとともに心も体もスッと軽くなり、静かで豊かなひととき。

湯浴み後に、館内を歩いていると、本館「巴」の間で開催されていた「今昔写真展」を見つけました。

そこには、三養荘の歩みを辿る貴重なモノクロ写真の数々が展示されています。

三養荘が開業したのは1947年。70年以上にわたり、多くの人々を迎えてきた場所。写真の中に映る建物や庭園は、今、目の前にある景色とどこか重なり、まるで当時へタイムスリップしたかのような感覚になります。時代が変わっても、この場所が大切に守り続けてきたものがあり、写真を通してその歴史や背景に触れていると、この場所に立っていることが、とても特別なことのように感じられます。

長い年月を経て受け継がれてきた三養荘の物語。その一端に触れることができた時間は、旅の記憶の中でも、静かに、そして深く心に残るひとときに。

伊豆長岡温泉 三養荘
住所:〒410-2204 静岡県伊豆の国市墹之上270
TEL:055-947-1111
https://www.seibuprince.com/ja/sanyo-so-ryokan

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

先頭に戻る