
伊豆長岡の地に静かに佇む名宿「伊豆長岡温泉 三養荘」。三養荘は、昭和初期に実業家・岩崎久彌 氏の別邸として誕生し、庭園を手がけたのは、京都を代表する作庭家、七代目小川治兵衛です。近代日本庭園の名匠によって描かれたこの庭は、今もなお、訪れる人の心を静かに解きほぐします。三養荘の日本庭園は、素晴らしいと耳にしていただけに、その門をくぐり一歩を踏み出す瞬間を、胸を高鳴らせながら心待ちにしていました。

数寄屋造りの本館は、庭園と呼応するように静かに佇み、木の温もりと繊細な意匠が日本建築の奥ゆかしさを伝えます。かつて岩崎久彌氏の別邸時代に客間として使われた「客間棟 老松」は、入母屋造の端正な平屋建て。三方に巡らせた縁側から庭を望む開放的な造りが特徴で、春には桜が寄り添い、重厚な屋根と淡い花色の対比が美しく映えています。

庭を進むと、木立の合間から「松風」と「小督」の端正な屋根が姿を現し、入母屋の美しいラインが空に溶け込み、歴史を纏った建物が静かに庭と呼応しているのがわかります。縁側越しに広がる景色を思い浮かべながら、飛び石をゆっくりと辿る時間。庭と建築が溶け合う景色の中で、庭と建築が溶け合う景色の中で、かつてここに息づいていた時代に思いを馳せます。

敷地内に広がるのは、池を中心に構成された回遊式日本庭園。なだらかな曲線を描く園路、水面に映る春の陽射し、風に揺れる若葉。一歩足を踏み入れた瞬間から、時間の流れがゆるやかにほどけていくのを感じます。

自然の地形をそのまま生かしながら、建物がゆるやかに点在する贅沢な設え。土地の呼吸に寄り添うように配された佇まいから、この場所ならではの豊かさが静かに伝わってきます。

岩肌をくり抜いた祠の奥に、そっと佇む石仏の御姿。自然の岩とひとつになるように安置されたその姿は、庭の景色に溶け込みながら、静かにこの地を見守り続けています。

足元の飛び石を辿り、橋を渡り、主人と並んで同じ景色を眺めながら、静かな時を刻む。14年という私たちの歳月は、この庭の歴史からすれば、まだ始まったばかりのようなもの。けれど、小さくても確かな歩みを、静かに続けていくこと。その選択こそが、何よりも豊かだと感じられたのです。

曲がりくねった赤松の大木は、長い歳月をその身に刻みながら、空へと力強く枝を伸ばしています。添え木にそっと支えられた木肌は、静かに生き続けているようです。

白い梅がひとつ、またひとつと可憐に花開き、凛とした枝先に灯るやわらかな白は、春の訪れをそっと告げる小さな光のように、静かな庭に気品を添えています。

庭の奥へと続く坂道をゆっくり登ると、やがて東屋が姿を現します。そこに立てば、敷地内の景色を一望でき、庭全体の広がりと美しさをあらためて実感。

「三養荘 」の敷地は、139,738.00㎡(約4万4千坪)にもおよび、そのうち約3,000坪を日本庭園が占めています。門をくぐった瞬間、その壮大さは単なる数字ではなく、体感として迫ってくるもの。庭と建築がゆるやかに溶け合う景色は、日常から切り離された“もうひとつの世界”のように広がっています。

早咲きの桜が枝をそっと伸ばし、庭の景色に控えめに顔をのぞかせ、咲き始めの淡い花色が、深い緑にやわらかく滲み、春の気配を告げるよう。

どの角度から眺めても隙のない美しさを湛えた景色は、“余白”の価値を静かに物語る庭。

池を囲むように佇む灯籠と、緩やかな高低差を描く木々。枝葉が重なり合いながら視界に奥行きを生み、目に映る景色をいっそう豊かに、そして、立体的に彩っています。

ゆるやかに続く園路は、次の景色へと自然に視線を導き、気づけば、その流れに身を委ねる歩み。

ゆっくりと時間をかけて、庭をひと巡りし終えると、胸の奥にそっと広がるのは、言葉にしきれない静かな充足感でした。ただ自然の中に身を置き、ゆっくりと歩くだけで満たされる豊かさを感じ、深く息を吸い込むと、肩の力がすっと抜け、ここにいることそのものが安堵へと変わっていく。

庭を後にする足取りは軽やかで、それでいて胸の奥には、やわらかな余韻が静かに灯り続けていました。
伊豆長岡温泉 三養荘
住所:〒410-2204 静岡県伊豆の国市墹之上270
TEL:055-947-1111
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