
伊豆長岡の穏やかな山麓に抱かれ、約三千坪の日本庭園に包まれる「伊豆長岡温泉 三養荘」。深い歴史と揺るぎない格式を湛え、滞在そのものが旅の主役となる名宿です。

象牙婚式となる14周年の結婚記念日。節目のひとときを重ねる場所として、私たちが訪れたのは、こちらの名宿へ。

建築家・村野藤吾が描く現代の数寄屋造り(新館)
1929年(昭和4年)、「三養荘」の本館は、旧三菱財閥の創始者・岩崎弥太郎の長男、久彌氏の別邸として建てられました。京都の名庭師・小川治兵衛が手がけた日本庭園の中央に佇むその建物は、瀟洒な数寄屋造りの和風建築。庭と建築が一体となる、美しい空間構成が大きな魅力。往時の趣を今に伝える庭園の景観と、細部にまで息づく伝統の意匠。「三養荘」は、日本の美意識と雅を体感できる場所として、建築を愛する人々や本物を知る旅人たちを魅了し続けています。

丁寧に守り継がれてきたこの建築群は、その歴史的価値が高く評価され、2017年6月(平成29年)に本館をはじめとする複数の建物が国の登録有形文化財に認定されています。

歴史ある本館の風格に加え、1988年(昭和63年)に開業した新館は、建築界の巨匠・村野藤吾による設計です。文化勲章受章者でもある村野氏は、「三養荘」の自然環境を巧みに取り込みながら、柔らかな数寄屋造りで空間を構成。廊下から客室へと流れるように続く設計には、随所に繊細な意匠が息づいています。伝統を踏まえながらも現代へと開かれたその佇まいは、日本建築の美意識が今尚、進化し続けていることを静かに物語っています。

館内のどこを切り取っても、丁寧に整えられた庭が広がり、移ろう四季の気配がそっと寄り添う場所。

新館に設えられた西陣織の襖絵は、まさに圧巻。絹糸が織りなす奥行きある色彩と緻密な意匠が、静謐な空間に格調をもたらします。光を受けるたびにほのかに艶めき、平面でありながら立体的な深みを感じさせる佇まい。

それは単なる装飾ではなく、日本の伝統技術と建築美が響き合う、芸術のような一幅です。

新館の廊下に掲げられた館内マップに思わず足を止め、これから始まる滞在への期待がふっと高まる瞬間。整然と描かれた見取り図には、本館や新館、離れ、そして広大な庭園がゆったりと配され、その広がりは、まるで一つの小さな町のよう。渡り廊下が建物同士をつなぎ、池や木立が点在する様子を眺めていると、この宿がどれほど贅沢な空間構成のもとに成り立っているのかが伝わってきます。「今日はどこまで歩いてみようか」と、そんな思いが自然と湧き上がるほどのスケール感。見取り図は単なる案内図ではなく、これから巡る時間の設計図。「三養荘」という唯一無二の世界へ、静かに心を解き放つプロローグのように感じられました。

小径の先に、日本庭園と本館へ導く控えめな門が姿を現します。石畳を踏みしめる足音さえ吸い込まれてしまいそうな静けさ。苔むした庭石と手入れの行き届いた松が、訪れる者をやわらかく迎え入れます。その先に広がるのは、宿泊ゲストのみが足を踏み入れることを許された特別な領域。喧騒とは無縁の空気が満ち、時間の流れまでもが緩やかに変わる瞬間です。

春を映す、老松の座敷(本館 客間棟 老松)
数寄屋造りの本館は、庭園と呼応するように静かに佇み、木の温もりと繊細な意匠が、日本建築ならではの奥ゆかしさを伝えます。かつて岩崎久彌氏の別邸時代、客間として使われていた「客間棟 老松」。入母屋造の端正な平屋建てで、十二畳の座敷と次の間を備え、三方に巡らせた縁側から庭を望む、開放感あふれる数寄屋風の意匠が特徴です。春には、その佇まいに桜がそっと寄り添い、重厚な屋根のラインと淡く揺れる花びらの対比が美しく、歴史ある建築にやわらかな季節の彩りを添えていました。

静謐を極めた居間と書斎(本館 松風・小督)
かつて岩崎久彌氏の別邸時代、居間や書斎として使われていた現在の「松風」と「小督」。中央棟の北東隅から雁行するように伸びる平屋建てで、入母屋造の端正な屋根が印象的。内部には十畳の座敷と八畳の次の間、さらに前室を介した八畳座敷が配され、三方にめぐらされた縁が庭へと視線を導きます。十畳の間には、松の一枚板を用いた蹴込床が設えられ、本館の中でもとりわけ上質な意匠が凝らされた空間となっています。静けさの中に気品が漂い、かつて主が思索を巡らせたであろう時間の重みを感じる場所。

京都の美意識を映す、季節の庭園
庭園は池と小川を中心にゆるやかに巡る回遊式。歩みを進めるごとに景色が移ろい、春は桜やツツジ、夏は花菖蒲、秋は紅葉、そして冬には梅や寒桜が彩りを添えます。四季折々の草花が、まるで絵巻物のように目の前に広がります。

ここでは、ただ散策するだけでも、季節の気配と時間の移ろいを体全体で感じられ、日本庭園が創り出す“間”の美しさは、まさに非日常そのものです。

ひと気のない翌朝の早朝に、澄んだ空気の中をゆっくりと歩いてみようと思います。

朝晩には、まだ少しだけひんやりとした空気の残る庭園に、梅の花がそっとほころんでいました。淡い花びらは陽の光をやわらかく受け止め、風に揺れるたび、今にもこぼれ落ちてしまいそうな儚さを漂わせます。枝先に静かに宿るその白は、華やかに咲き誇るというよりも、凛とした気配で季節の訪れを告げる存在。広い庭の静寂の中で、梅は声高に主張することなく、ただそこに在ることで春の兆しをそっと伝えています。

愛犬と共に泊まる特別な離れ「藤裏葉」
私たちは、愛犬ショコラとともに過ごす日本旅がテーマ。今回は、特別な離れ「藤裏葉 / FUJINOURABA」へ滞在します。

独立した建物、離れの藤裏葉は、「栄 309」、「華 310」の2室限定となり、愛犬同伴専用客室です。

栄と華の間2室をつなぐ共有スペースとなる居間。

離れのコンセプトは、「~和んずHanare~」という名の通り、愛犬と心ゆくまで寛ぐための独立した建物になっています。

客室には専用の坪庭があり、静寂さを兼ね備えた贅沢なプライベート空間。

ペット同伴でありながら、温泉旅館の贅沢を味わえる希少な客室タイプです。

坪庭は、愛犬が自由に降り立つことができる特別な場所。

客室には、かけ流し温泉が備わり、四季の庭を目の前に湯浴みできるプライベート感が最大の魅力です。

誰にも邪魔されない静寂の中で、愛犬と寄り添い深呼吸。そんな緩やかな時の流れは、この宿ならではの贅沢な体験です。

「歴史を養い、心を養い、美を養う。」
「三養荘」の名に宿る“三”にかけて、私が感じた三つの”養”。時を重ねた建築に触れ、庭園の気配に身を委ねるひととき。そのすべてが、慌ただしい日常では気づけなかった感覚を、そっと呼び覚ましてくれました。三つの“養”に映し出された美の記憶を、これからゆるやかに紐解いてまいります。
伊豆長岡温泉 三養荘
住所:〒410-2204 静岡県伊豆の国市墹之上270
TEL:055-947-1111
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