伊豆長岡・温泉旅館「三養荘 -3-」深緑に包まれて歩く一歩一景、夏の回遊式庭園

伊豆長岡の地に静かに佇む名宿「伊豆長岡温泉 三養荘」。春の滞在でその美しい日本庭園を歩いた私たちは、季節を変え、再びこの場所へ。淡い花々が彩っていた春の庭も、夏を迎えると一面の緑に包まれ、まるで別の表情を見せてくれます。

昭和初期に実業家・岩崎久彌氏の別邸として誕生し、庭園を手がけたのは、京都を代表する作庭家、七代目小川治兵衛。

約3,000坪にもおよぶ回遊式日本庭園は、自然の地形を生かしながら、池や園路、木々、そして建物が巧みに配され、一歩進むたびに新しい景色へと導いてくれます。

春の庭が「花と光」のやわらかさを湛えるとすれば、夏の庭は「緑と陰影」の力強い生命力を感じさせる佇まい。

曲がりくねった赤松の大木は、長い歳月を重ねた幹から力強く枝を伸ばし、その存在だけでこの庭の歴史を物語っています。建物と自然が競い合うのではなく、互いの美しさを引き立てながらひとつの景色をつくり上げている。それこそが、三養荘の庭園に感じる大きな魅力なのかもしれません。

春とは比べものにならないほどに、色濃く眩しい木々の緑。青々と茂る枝葉が空を覆い、強い夏の日差しを受けながらも、木陰にはひんやりとした静けさが漂っています。

園路を歩いていると、時折木漏れ日が足元に落ち、風が葉を揺らすたびに光と影がゆっくりと動いていく。同じ庭園でも、季節が変われば、これほどまでに景色の印象が変わるのかと感じます。

本館では、6月に期間限定で開催された「日本庭園カフェ」が大変好評だったそうで、宿泊客だけでなく、多くの一般来場者が訪れ、庭園とともに穏やかな時間を楽しまれたのだとか。好評を受け、今後も再び開催が予定されているとのこと。歴史ある数寄屋造りの建物と庭園が織りなす景色を眺めながら、ゆったりと過ごすひととき。そんな三養荘ならではの楽しみ方が、少しずつ新しい広がりを見せているようです。

広大な敷地の景色を一望できる高台へ足を運ぶと、春とはまた違う景色が広がっていました。木々が青々と葉を茂らせ、春には見えていた建物も、今では深い緑の中にすっかり包まれています。同じ場所から眺めるからこそ、季節の移ろいがより鮮明に感じられる、夏の三養荘ならではの景色です。

石橋の先へと続く園路が、深い緑に包まれた庭の奥へと静かに誘います。


橋の袂では、夏を代表する百日紅が美しく咲き誇る様子に目を奪われます。

青い空と濃い緑を背景に、枝先いっぱいに咲く百日紅。真夏の陽射しにも負けない華やかさがありながら、どこか涼やかで、庭園の中に鮮やかな彩りを添えています。

さらに水場へ目を向けると、そこには水草のホテイアオイの姿が。

水面に浮かぶ葉の間から、青紫色の花が顔をのぞかせ、可憐でありながらどこか妖艶な雰囲気を漂わせています。静かな日本庭園の中に、夏だけの色彩がそっと浮かび上がるよう。

以前も心に残った石仏に、夏の庭でもまた出会うことができました。岩肌をくり抜いた祠の奥で、深い緑に包まれながら静かに佇むその御姿。季節が移ろう中、変わらぬ姿にどこか懐かしさを覚えます。

春の庭では優雅に泳いでいた鯉たちも、夏は、陽気に誘われるのか、どこか動きが俊敏に感じられます。水面をすっと横切り、鮮やかな姿が一瞬だけ視界に現れては、また深い水の中へ。

季節の移ろいとともに、耳に届く鳥の声は蝉の声へと変わり、池を泳ぐ鯉の動きさえも変わっていく。そんな小さな変化に出会えるのも、自然とともにある庭園ならではの魅力です。

夏の庭を歩いていて何より心地よいのが、木陰に入った瞬間の涼やかさ。外は強い夏の日差しに照らされていても、木々の下では風が通り抜け、体にまとった暑さが少しずつほどけていきます。庭を歩く速度も自然とゆっくりになり、立ち止まって木々を見上げたり、水面を眺めたり。春には花を追うように歩いた庭を、夏は緑陰を探しながら歩く。そんな季節ごとの楽しみ方ができるのも、広大な回遊式庭園ならでは。

ひと巡りした後は、庭にある東屋へ。木陰に腰を落ち着け、愛犬ショコラと一緒に夏涼み。強い陽射しから少し離れ、木々の葉音に耳を澄ませながら過ごすひとときは、それだけで贅沢な夏の時間です。ショコラも心地よい木陰でひと休み。

春の庭を歩いたときとはまた違う、深く濃い緑に包まれた三養荘。季節が変われば、同じ場所で見える景色も、聞こえる音も、感じる風さえも変わっていきます。一歩進むたびに新しい景色が現れる「一歩一景」の庭だからこそ、その違いをゆっくりと味わうことができるのでしょう。春には春の美しさ。そして、夏には夏だけの美しさ。緑深き庭を歩き、花を眺め、水面を泳ぐ鯉に目を留め、最後は木陰で静かに涼む。三養荘の夏は、華やかさだけではなく、暑さの中にある「涼」を楽しむ時間でもありました。季節を重ねるたびに、また訪れたくなる。そんな余韻を残してくれる、三養荘の日本庭園です。

伊豆長岡温泉 三養荘
住所:〒410-2204 静岡県伊豆の国市墹之上270
TEL:055-947-1111
https://www.seibuprince.com/ja/sanyo-so-ryokan

 

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