南砺市城端「松井機業」蚕の奇跡!自然に織り成す美しき伝統の城端絹

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今から440年前に京都の「東本願寺」の別院として富山の南砺市城端に
城端別院善徳寺」が移り、寺内町として栄え「越中の小京都」とも称される城端の街。
井波にも東本願寺の別院である「真宗大谷派 井波別院 瑞泉寺」があるため。
南砺市には別院が2つもあり全国的に見ても珍しいと言われています。
その時代の1577年から絹織物は始まったとされています。

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老舗の機業場である「松井機業」は、
1877年(明治10年)創業より一貫して、140年近くもの間、絹織物の製造販売をされています。
こちらでは、2つの蚕が生み出す奇跡の繊維「しけ絹」をはじめとし、
絽、斜子、紋紗、杉綾なども生産されています。
今回、「リバーリトリート雅樂倶」と「L’évo レヴォ」にてその存在を知った
松井機業さんの機業場の見学をさせていただくと共に、
現在6代目見習いとして活躍される松井家の三女・松井紀子さんに会いにやって参りました。

「リバーリトリート雅樂倶」素晴らしき富山屈指のリゾートホテル宿泊記
http://lade.jp/articles/travel/35508/

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爽やかなラベンダー色の夏着物でお出迎えしてくださる6代目見習い・松井紀子さん

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工場内は、カシャンカシャンと玉糸の束をかける糸操りが見事な調和音を奏で鳴り響いています。
昔は、繭から糸を取り出す製糸作業もされていたようですが、
高度経済成長や経済構造の変化に伴い、日本国内の養蚕業はほとんど消滅してしまったそうです。
現在、南砺市で糸づくりをされるところはなく、仕入れたばかりの原料の生糸を実際に触らせてくださいました。
二頭の蚕がつくった繭玉からとれる玉糸は、通常の艶のある生糸とは違い、
ハリと強さがあり、独特な節が美しく印象に残ります。

※ショールーム・工場見学は「しけ絹コースター」が土産に付き、1人600円となります。
松井機業
お問い合わせ先TEL:0763‐62‐1230
http://www.shikesilk.com/

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蚕は、糸を吐いて繭をつくることによって、幼虫の頃に摂り過ぎた体内の不要なタンパク質を放出します。
繭をつくらなければ、サナギから成虫になることは難しいため必要不可欠な行為なのです。
その繭の中には、100個中に2~3個の割合でしか生まれぬ、二頭の蚕がつくりだす「玉繭」があり、
通常の繭と比べるとその大きさは2倍近くです。
その玉繭がからとれる糸を玉糸といい、
昔は、この玉糸で織られる絹は「節絹」と呼び、上等な着物にはならないということで、
廃棄または安価に取引されていたそうです。
しかし、城端のアイデアマンが、その玉糸の節を「二頭の蚕の愛の結晶」と謳い、
自然に生み出す奇跡の繊維、希少性のある玉糸として価値を見い出し、
和紙を貼り合わせて空間の一部として、襖やインテリアなど、
ライフスタイルに溶け込むように合わせてつくられたことが「和紙を裏打ちしたしけ絹」のはじまりだそうです。

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その昔、絹織物が盛んであった頃に従業員が100人規模の大所帯であったのが、
入口に色濃く残された当時のタイムカードから伺うことができます。
現在は、紀子さんを筆頭に両親と数人の社員と共に、玉糸に寄り添い、誇り高き伝統技術を守り続けられています。

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繊細な玉糸は、節の部分が切れてしまうこともあり、機械といえど、そっと見守る熟練工の手が必要とされます。

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姉倉比賣神社

太古、越中に姉倉比賣という姿かたちの美しい女神様
故郷の舟倉山から大竹野(今の呉羽町)の 地へお移りになり、以後その土地の人々と力を合わせて、
開拓を進め、心やさしい比賣は、娘たちに機織りを教えられ、
村人たちには仕事に精を出すように励まされたので、
誰もがお慕いするようになったと伝えられる女神様を祀られています。

「 ここは、いずこぞ大竹野よ 機を織りますわたくしは
心もともに トンカラリ トンカラリ 」

明るい唄声と共に比賣が機を織り、村は豊かに栄えたとされています。

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地元の高校を卒業後、すぐに東京の私立大学に進学した紀子さんは、
証券会社の営業職に就いて東京暮らしを満喫されるOLさん。
当時、城端で家業を継ぐということは到底頭になかったと正直に話してくれました。
2008年には、大きな洪水が押し寄せ、甚大な水害被害を被った城端の街。
松井機業も壊滅に近い状態の被害を受けながらも、父である文一さんは、機業を畳むことは微塵も考えなかったそうです。
当時、東京にいた紀子さんにとって、現状被害の大きさも、そんな大変なことになっているとも露知らず、
今思えば、あんな仏のように優しいだけの父ですが、やはり父は偉大です」と、
涙ながらに復旧に厳しかった当時の様子を語ってくれました。
そんな、紀子さんがこの道へと進むキッカケとなったのは、
父・文一さんが上京し、東京の得意先へ行くのに同行した時のこと。
そこで、蚕の性質や、働き、素材の素晴らしさ、3千年以上に渡る蚕と人との深い関わりを知ることとなり、
うちはこんなにも凄い素材を扱っていたのかとほんま驚きました」と。
その日を境に、家業を継ぐことを心新たに決意し、2010年の夏に故郷へ戻り、
6代目見習いとして、絹について一から学び始めるのです。

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トンカラリ、トンカラリと絹が織り成す音が工場内に鳴り響きます。

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織る毎に違う表情を見せるため、唯一無二の織物が誕生します。

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2,400本の糸を張る製織台。
その糸が終わりを迎えると、新たな糸を1本1本手で繋ぎ合わせるという細かい作業が待っています。

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出来上がった織物をアルカリ性の液体に浸し、
生糸の膠質成分である「セリシン」を取り除き、生地をやわらかくほぐす精錬作業と染色もこちらでいたします。
染めの技術も大切ですが、紀子さんは、真っ白な絹が一番美しいと話してくれました。

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松井家

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しけ絹の襖を是非見ていただきたいと、ご実家の居間に招待してくださいました。
同室内で、施工して5~6年のしけ絹の襖の輝きはもとより、
50~60年のしけ絹の襖の耐久性や経年変化を迎え、極楽浄土の霞がかったかのような風合いも見ることができます。
富山、金沢は襖の周りが黒いことから、黄金色に染めたこちらの襖が人気があるようです。
昔の人は、きっと陽の光や蝋燭の灯火でこのしけ絹の表情の違いを楽しまれていたのではないでしょうか」と、
襖を眺めて嬉しそうに話す紀子さんは、そんなしけ絹の持つ魅力に益々魅了されていっているようです。
絹は、光が当たると無数に乱反射し、美しい光沢の輝きを放つという自然の性質を持っており、
窓のシェードで透かすと、強い陽の光を柔らかく届けてくれる性質もあり、
2枚重ねすることで紫外線を70%もカットし、体感温度は7℃も下げてくれるという優れ物です。

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しけ絹の襖

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しけ絹のシェード

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仏壇の紗・斜子テープ

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しけ絹のシェードの表情が、水の波打つ様にも伺えます。
生地を重ねることでできるこの繊細な模様は「モアレ」と呼ばれるそうで、
まるで絵画を眺めているかのような気持ちにさせてくれます。

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ショールーム

手に取り楽しめるよう様々な商品を飾り、光の演出を工夫され、絹織物の魅力を伝えるショールームを設けています。

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ヨハナス・ストール

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染織物

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絹紙の小物

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紀子さんはここまで来れたのは、全て富山や城端で活躍される人々のおかげと話します。
三姉妹の三女として松井家に生まれ、「糸へん」に「己」と書いて紀子
ある方に「あなたは糸に触れることで己を知る子。糸にかかわることで自分自身がわかってくる」と言われたそうです。
その言葉通り、しなやかに多忙な日々を乗りこなし、
キラキラと周囲に注がれるその愛くるしい笑顔、彼女を取り巻く温かな支援の手、
そして、張りのある強い芯を持ち合わせる彼女こそが絹のような存在なのだと思えてなりません。

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城端の霊水

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五郎丸屋のT五

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がや焼き

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L’évo レヴォ」の谷口英司シェフが富山に訪れたのは2010年、
そして、紀子さんが家業を継ぐと心に決め故郷に戻った年も2010年。
「その年から不思議な巡り合わせが広がり、多くの人と繋がる奇跡も姉倉比賣のお力ゆえと思います」
と、歴史の重みを肌で感じるかのように誇らしげな笑みが零れます。

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Johanas ヨハナス

松井機業紀子さんが立ち上げた絓絹の新たな使い方を提案するブランド「Johanas ヨハナス」。
城端絹の魅力を1人でも多くの方に伝えようと、
彼女は今日も飽くなき挑戦を胸に、日々着実にひと織りひと織り大切に歩んでいくことでしょう。

松井機業
富山県南砺市城端3393 TEL:0763‐62‐1230
http://www.shikesilk.com/

富山県南砺市城端3393

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